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     NPO・中間法人税務のポイント原稿

以下は、中央経済社、税務弘報2001年12月号に寄稿の原稿です。

このページは過去に作成したページです。現在の情報と異なることがありますのでご注意ください。

S Sp

目次

T はじめに
U NPO法人制度の概要と税制の考え方
V NPO法人に対する税務
W 認定NPO法人の特例
X 中間法人制度の概要
Y 中間法人に対する税務

T はじめに
 平成10年に特定非営利活動促進法が施行され、13年8月現在の累計申請法人数は約5400となっている。そして本年の税制改正において「認定特定非営利活動法人(以下、認定NPO法人という)に寄附をした場合の特例」が設けられた。(措法41条の18、66条の11の2、70条I)
 また本年6月に中間法人法が成立した。
 本稿では、特定非営利活動法人(以下NPO法人という)と中間法人の概要にふれ、そしてそれらの法人の税務について述べることとする。

U NPO法人制度の概要と税制の考え方
 NPO法人制度については法律の成立から3年を経過しているので衆知のことであろうから、ここでは詳しくは記載しない。本稿では主として税務実務を紹介するのであるが、各法人に対する課税はどのようなものが望ましいかという税制の観点も重要である。税制を考えるときには、法人制度がどのような内容であって、また設立された法人が実際にどのような活動を行っているかなどの実態が重要な前提となる。NPO法人の特徴としてあげれられるものは以下である。
□ 不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与する
□ 営利を目的としない
□ 法定された12の活動のいずれかを行うこと
□ 株式会社における資本金や財団法人における基本財産のような資産の拠出は求められていない
□ 法律要件を満たしておれば法人が認証されるという準則主義であり、認可制度ではない
 一つの特徴は社団・財団法人に比べて設立が容易であるということである。あくまで社団・財団法人と比べての話であって、300万円の出資金さえ用意できるならば有限会社の設立の方が容易であるというのが実感である。
 もう一つの特徴は、「不特定かつ多数の利益の増進」とか「営利を目的としない」といった言葉の曖昧さから来る問題である。例えば、株式会社である食品会社であっても不特定かつ多数の利益の増進に寄与しているのである。また営利を目的としないという言葉も、全くの無償ないし無給でない限りどこで営利性を線引くのか判断が困難である。現状では剰余金の分配を行わないということが基準とされることが多いがこの基準だけでは不十分である。非営利性について定性的な説明ではなく、定量的な基準が必要ではないかと考えている。実際にNPO法人を見ると、本当に敬服する素晴らしい慈善事業を行っている法人もあれば、一般企業とあまり変わらない活動を行っている法人もある。
 以上のことはNPO法人特有のことではなくて、日本における非営利組織全体について言えることであって、民法34条に基づいて設立された社団・財団法人の公益性についても現に論議されている。従って税制についてもNPO法人、中間法人だけを眺めて論議するべきではなく、まずは公益性と非営利性について定義を明確にした後に、その公益性、非営利性の程度に応じて、各非営利組織間のバランスを考慮した税制優遇制度が構築されるのが理想である。


V NPO法人に対する税務
 NPO法人に対する課税の要約は図表1である。
 以下、特徴的なことを述べる。
1 特定非営利活動法人は法人税法上、公益法人等とみなされるが、公益法人に適用される税制上の優遇規定については除外されている。
 □ 税率は普通法人と同じ
 □ 寄附金の取り扱い
・寄附金を支払う場合、普通法人とほぼ同じ
・法人内で収益事業から非収益事業へ寄附をするみなし寄附金制度がない
 今回の税制改正で、寄附した側の課税が優遇される認定NPO法人制度が設けられた。

 なお、「現在任意団体だが、NPO法人になると税金面で損をするのか」という質問をよく受けるが、税法の規定上は図表1のようにNPO法人と人格なき社団の税制上の扱いは基本的に同じであり、法人化による損得はない。

2 公益法人等(特定非営利活動法人が含まれる)は収益事業を営む場合に限り法人税が課税される。
 法人税法に規定されている33種類の事業を事業場を設けて継続して行う場合に(以下収益事業を行うという)法人税等が課させれる可能性がある。
 特定非営利活動促進法では、「特定非営利活動法人はその行う特定非営利活動に係る事業に支障がない限り、その収益を当該事業に充てるため収益を目的とする事業を行うことができる」と規定されている。ここでいう収益事業と法人税法上の収益事業とは、言葉は同じだが定義は別物である。従って、特定非営利活動促進法上は本来の事業であっても、法人税法上は収益事業に該当する場合があるので注意が必要である。

3 法人税法上の収益事業で「儲け」が出なければ、税金を心配しなくて良い。
 当然のことであるが一般の人には誤解されやすいのであえて別項目とした。
 (消費税は6参照)

4 地方税の均等割(原則の税額は年間、道府県2万円、市町村5万円)
  収益事業を行っていなければ減免される場合がある。
  収益事業を行っていれば赤字でも均等割がかかる。

5 収益事業の赤字を次年度以降(5年間)に繰り越すには、青色申告の届出が必要である

6 消費税は、行った取引が法人税法上の収益事業に該当するか否かに関係なく、国内で行った
  課税資産の譲渡等について課税される。
 課税資産の譲渡等という言葉の定義は、法人税法上の収益事業の定義と別物で、広範囲の取引が該当する。したがって法人税は発生しないが、消費税は納税の必要があるという場合があるので注意を要する。

7 源泉所得税
 職員などへの給与の支払い、セミナー講師への講演料の支払いについての所得税の源泉徴収制度についてなじみの薄い団体があるので注意を要する。
 有償ボランティアなどに支払う金銭については判断しにくい場合があるが次のように考える。  
 「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる」場合は報酬である。
  一方「雇用契約またはこれに類する原因につき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価」の場合は給与である。

8 収支計算書の提出
  年間収入金額が8000万円(法人税法上の非収益事業の収入を含む)を越える場合には、
 法人税の確定申告書を提出すべき場合を除き、事業年度終了後4ヶ月以内に収支計算書を税務署に提出しなければならない。(人格のない社団等は提出義務がない)

W 認定NPO法人の特例
1 税制優遇のかたち
非営利法人に対するこれまでの税制優遇から考えて、NPO法人にも導入される可能性のあった税制優遇のかたちは、図表2に記載しているものである。
1つは法人税法上の課税所得に対する税率の軽減である。2つ目は法人内における法人税法上の収益事業から非収益事業へのみなし寄附金制度である。3つ目が今回の税制改正で導入された、寄附をした外部者についての税制優遇である。これによりNPO法人が寄附金を集めやすくなる効果が期待されている。1つ目、2つ目は導入されていない。
 なお、NPO団体の中には認定NPO法人になれなければ、「格下の」NPO法人になってしまうのではないかと懸念する向きもある。このような法人に対しては、あくまで税制優遇のための税法上の規定が新設されただけであり、NPO法上の規定で別格の法人が誕生するのではないことを伝える必要がある。

2 優遇措置の内容
(1)法人が寄附した場合(法人税)
 認定NPO法人に対し、特定非営利活動に係る事業に関連する寄附金がある場合には、当該認定NPO法人に対する寄附金の額は、一般の寄附金の損金算入限度額とは別に、特定公益増進法人に対する寄附金の額と合わせて損金算入限度額の範囲内で損金算入される。(措法66条の11の2)

(2)個人が寄附をした場合(所得税)
 認定NPO法人に対し、特定非営利活動に係る事業に関連する寄附(その寄附をした者に特別の利益が及ぶと認められるものを除く)を行った場合には、その寄附に係る支出金は特定寄附金をみなして寄附金控除が適用される。(措法41条の18)

(3)個人が寄附をした場合(相続税)
 相続又は遺贈により財産を取得した者が、認定NPO法人に対し、特定非営利活動に関連する贈与として、取得した財産を贈与した場合には、その贈与により贈与をした者又はその親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となる場合を除き、その贈与をした財産の価格は相続又は遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入されない。(措法70条@I)
 ただし、その贈与を受けた認定NPO法人が、贈与のあった日から2年を経過した日までに認定NPO法人に該当しないこととなった場合又はその贈与により取得した財産を同日においてなおその公益を目的とする事業の用に供していない場合には、その贈与をした財産の価額はその者の相続税の課税価格の基礎に算入される。(措法70条AI)

2 認定要件
 認定NPO法人となるためには非常に厳しい要件を満たさなければならない。
要件は細かく定められているが、本稿ではイメージを持っていただくためにあえて不正確な表現であるが平易な説明にしている。実際の判断にあたっては法律、施行令、施行規則を参照いただきたい。

(1)総収入金額のうち寄附金総額が1/3以上であること。(措令39条の22の2@)
 同一の者からの寄附金のうち、寄附金総額の2%を越える部分については寄附金総額に含めないので、特定の人からの多額の寄附にたよらず、広く寄附を募っている法人が対象となる。とはいえ3000円未満の寄附金は算式に含めないこととなっている。
 また役員又は社員からの寄附金について一定の場合には寄附金総額に含めない(つまり認定されにくくなる)こととなっている。(措規22条11の2A二)社員を広く規定しており社員から寄附金を受け取っている法人は、社員の範囲を狭く規定し直し、賛助会員制度などを導入した方がこの要件を満たしやすくなるケースがあると思われる。
 この規定については、外部資金にたよらず事業を行うことによって運営を行おうと努力しているNPOは認定されないこととなり、NPOの自立の動きに逆行するとの批判がある。

(2)同一市町村内における寄附金収入、特定非営利活動などが80%以下であること。(措令39条の22の2A)
 公益という観点から一つの市町村ではなく広い地域で活動していることが要件となっている。
これについては地域に根付いた福祉サービスなどを行う法人が対象からはずれてしまうという批判がある。

(3)事業活動の50%以上が会員など特定の者に対するものでないこと。(措令39条の22の2B)
 会員等への資産の譲渡等、会員等相互の交流などの比重が50%以上の場合は認定されない。会員になることについては不特定多数に門戸を開いているが、活動は会員を対象とするような法人は認定されないことになる。となると会員制度を見直すと認定要件を満たすことができる場合もあると考えられる。なお会員の定義は施行規則22条11の2Eを参照されたい。

(4)運営組織と経理について以下を満たすこと。(措令39条の22の2C)
@ 役員・社員のうち特定の者の親族等のグループが1/3以下であること
A 会計について公認会計士の監査を受けていること。又は法人税法施行規則53条から59条までの規定(青色申告者の記帳要件)を満たしていること。(措規22条11の2L)
 公認会計士の監査を受けることはその法人の会計の適正性について信頼性が高まり好ましいことであるが、費用面などの課題もある。NPO法では複式簿記によらずとも、正規の簿記の原則に従って記帳していればよいこととなっているが、多くの一般企業と同様に青色申告者の記帳要件を満たす経理は困難ではないので、この要件を満たすことは問題ないと思われる。また申請を行うことにより、法人税法上の収益事業に係る欠損金を5年間繰り越すことができるというメリットを享受できることになる。
B 費途が明らかでない等の不適切な経理を行っていないこと

(5)事業活動の内容について次の要件を満たしていること。(措令39条の22の2D)
@宗教・政治活動を行っていないこと
A役員、社員、従業員などに特別な利益を与えないこと
B総事業費のうちに特定非営利活動に係る事業費の占める割合が80%以上であること
C受入寄附金の総額の70%以上を特定非営利活動に係る事業費に充てていること。など
  BとCの基準を満たしているかどうかを証明するためには、管理費と事業費を分けるなど記帳時から注意が必要である。

(6)計算書類、役員名簿などの閲覧の請求があった場合には閲覧させること。(措令39条の22の2E)
  認定NPO法人は通常のNPO法人が行う情報公開に加えていくつかの事項を公開しなけれならない。その中には20万円以上の寄附者の氏名、住所と報酬または給与を得た役員又は従業員の氏名と金額の公開が含まれている。プライバシーに関係する点であり、公開しなくとも国税庁が調査できるようにするだけで十分ではないかと考える。

(7)法令に違反する事実などがないこと。(措令39条の22の2F)

(8)認定の申請する事業年度の開始の日において、設立の日以降1年を越える期間が経過していること。(措令39条の22の2G)
 通常設立初年度の期間は丸1年でないが、その場合でも第3事業年度には認定申請できる。

(9)法令に基づく行政庁の処分又は定款に違反する疑いがあると認められる相当の理由がないことについて、所轄庁から証明書の交付を受けていること。(措令39条の22の2H)

(10)(1)から(7)までは申請の直前2事業年度において満たす必要があり、さらに(4)から(7)については認定を受けるまで満たしておく必要がある。(措令39条の22の2I)
 金額的な要件で満たすことが難しいと考えられる(1)〜(3)の要件については、直前2事業年度において満たしておればよいので、言い換えれば申請年度や認定後の期間については満たしていなくても、認定NPO法人であり、寄附者に税制上の優遇措置があることになる。(この場合次回の認定申請時には条件を満たさないことになることに留意)
 但し、相続人等が行った認定NPO法人に対する相続財産等の寄附特例の適用にあたっては、贈与のあった日から2年を経過した日までに認定NPO法人に該当しないこととなった場合又はその贈与により取得した財産を同日においてなおその公益を目的とする事業の用に供していない場合には、その贈与をした財産の価額はその者の相続税の課税価格の基礎に算入されることなっているので注意を要する。(措法70条AI)

3 認定された場合の有効期間
 認定の有効期間は、国税庁長官の定める日から同日以降2年を経過する日までの期間である。(措法66条の11の2B)更新の制度がないので2年ごとに申請を行わなければならない。

4 施行日は平成13年10月1日 

X 中間法人制度の概要
 本年6月に成立した中間法人法の概略は以下である。なお、施行日は公布の日(6月15日)から起算して1年を越えない範囲内において定めることとなっており、執筆日現在まだ確定していないが、平成14年4月1日と見られている。

1 制定の経緯
 社団・財団法人やNPO法人のように広く公共の利益を目的とするのではなく、同窓会や親睦団体、互助会のように特定の者の利益を目的とする団体については、農業協同組合のような特別なものを除いて、一般的な法人制度がなかったので新しく制度が設けられた。
 なお、公益法人から中間法人への組織変更についての規定は盛り込まれなかった。公益法人制度についての問題意識から平成8年来同制度の見直しが検討されてきたところであり、現状では公益法人として互助会、同業者団体的な活動を行っている法人のあり方についても検討されてきたところである。その流れの中で平成12年3月の「中間法人(仮称)制度の創設に関する要綱中間試案」が公表され、そこでは公益法人から中間法人への組織変更の規定が盛り込まれていた。にもかかわらず今回盛り込まれなかった理由は公益法人として税制優遇を受けて蓄積した剰余金が、主務官庁による監督がない中間法人に組織変更した後にどのように扱われるかということへの懸念からである。
 また平成12年3月の中間試案に記載されていた「大規模法人に対する公認会計士等による会計監査の義務づけ」規定についても削除された。これは公益法人そのものについて現状では公認会計士監査が要請にとどまり法定されていないこととの均衡からであろう。

2 中間法人とは
社員に共通する利益を図ることを目的とし、かつ、剰余金を社員に分配することを目的としない社団を中間法人とした。(中間法人法2条一)
  有限責任中間法人と無限責任中間法人の2種類がある。設立及び運営の手続きは、社員が連帯して法人の債務について責任を負う無限責任中間法人の方が、有限責任中間法人より簡易であるといえる。
 特徴的な項目について図表3にまとめた。

3 計算書類
(1)計算書類の種類
 中間法人法9条Cに商法を準用して貸借対照表、損益計算書の作成を規定しているほか、有限責任中間法人については、貸借対照表、損益計算書、事業報告書、剰余金の処分又は損失の処理に関する議案、附属明細書の作成が規定されている。(中間法人法59条@)
 これでわかるように、これまでの非営利組織(社団・財団法人、社会福祉法人、NPO法人など)において作成を義務づけられていた収支計算書と財産目録が作成書類から除かれ、一般企業と同様の計算書類が規定されているところが大きな特徴である。

(2)計算書類の公開
 有限責任中間法人の計算書類は定時株主総会の1週間前から5年間主たる事務所に備え置かなければならない。社員及び法人の債権者は計算書類の閲覧又は謄本若しくは抄本の交付を請求することができる。(中間法人法61条)
 無限責任中間法人については計算書類公開の規定がない。

(3)会計基準
 中間法人法では商法の準用を多く行っており、会計処理の方法についても以下にように準用している。
 @ 財産評価の原則、減価償却の規定(中間法人法9条C三→商法34条)
 A 有限責任中間法人について、金銭債権の評価など財産評価の特則(中間法人法71条→商法285条ほか)
 以上のことから、計算書類の種類だけではく、その作成基準も一般企業とほぼ同様と言える。

Y 中間法人に対する税務

1 法人税、住民税、事業税
 格別の規定は設けられていないため、普通法人と同様の課税がなされることとなる。
したがって、例えば同窓会費の収入も益金として扱われることになり、経費を差し引いた後の金額は所得として課税されることになる。
 現行が人格なき社団であるならば、同窓会事業は法人税法に定める33の収益事業に該当しないため、余剰金が生じても課税されないこととは対照的である。(図表1参照)
 
2 消費税
 中間法人は消費税法上同法別表3に掲げる法人、すなわち公益法人などと同様に扱うこととされている。(中間法人法156条)したがって特定収入などの計算を行うこととなる。