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公益法人会計基準の見直しに関する論点整理(中間報告)についての意見         全国公益法人協会刊 月刊公益法人2002年3月号

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上記雑誌への拙稿です。
その後中間法人の会計が企業会計と同じ形で行うこととなったこと、現在公益法人制度そのものの検討が行われていること、そしてこの中間報告そのものの最終化がなされていないことなど依然流動的な状態です。

以下、原稿です。

公益法人会計基準の見直しに関する論点の整理(中間報告)(以下、中間報告という)について、個々の項目については意見を異にする部分があるが、基本的な考え方において大筋で賛成である。委員各位の努力に敬意を表したい。

パブリックコメントでは往々にして意見を異にする点のみが意見提出されるが、これでは賛成する部分についての意見が反映されない。従って本稿では意見を異にする点だけでなく、賛成している点も積極的に意見表明する。

T 意見の要約

1.賛成する点

    特別の理由がない限り企業会計において作成される財務諸表と同様のものとすること

    いわゆる損益計算書を作成すること

    主要な支出先、関連当事者間の取引等に関する情報を注記すること

2.反対する点

    収支計算書とキャッシュフロー計算書の両方を作成すること

    貸借対照表の正味財産の部において永久拘束他に分類すること

    退職給付、金融商品等の会計基準の適用を「原則とする」こと

    連結財務諸表の作成を「原則とする」こと

U 賛成する点

1.「特別の理由がない限り企業会計において作成される財務諸表と同様のものとする。」

原則として賛成する。

しかし次の点に留意いただきたいと思う。

現状の日本においては企業会計は主として国際的上場企業を想定した理論的に精緻な会計基準が、従来は企業会計審議会、今後は財団法人財務会計基準機構において作成されている。ここで作成された会計基準は公認会計士監査の対象となっている数千社の主として株式公開をしている大企業に適用が義務づけられている。この基準は約200万社の中小企業にとって難解であり導入困難なものが含まれている。従って近時では中小企業にとっての会計基準が検討されようとしている。

上記を踏まえて、公益法人の会計基準を考えるにあたっては、国際的上場企業を想定した会計基準をそのまま受け入れるのではなく、公益法人という特質並びに法人の規模を十分に勘案すべきと考える。具体的には一般の公益法人には簡易な基準の適用を原則とし、例外として大規模公益法人については、大企業向けの会計基準を参酌した理論的に精緻な会計基準を適用することが望ましいと考える。

2.いわゆる損益計算書の作成

予算消費型の活動だけでなく、事業型、独立採算型の活動も増えているので、いわゆる損益計算書の作成は不可欠である。

3.普遍性の高い会計基準の設定

非営利組織の会計基準が別個に多数ある現状は好ましくないと考えるので、この方向性について賛成する。

例えば子供が私立大学に進学するときには学校法人会計基準を勉強しなければ大学の財務内容を理解できず、また親が特別養護老人ホームに入所するにあたっては社会福祉法人会計基準を勉強しなければ施設の良否を判断できないのが、現在の日本における非営利法人の会計の実態である。これは好ましい状態ではないので中間報告の方向性に賛成する。

V 反対する点

1.基本的な価値観

中間報告でも述べられているように「国民又は納税者にとって理解しやすいものである必要」がある。

近年の企業会計における会計基準の精緻化は、証券取引法が適用になる上場企業の会計に対してなされてきたが、その基準の適用対象を上場企業に限定する旨の宣言がなされていないため、中小企業にも適用になるかどうか混乱が見られる。一部に「過度な精緻化」と映る会計基準に対し、中小企業における会計基準を別途設定する必要があるかどうかについて検討がなされようとしている。

そもそも会計というものは自然科学とは異なり、理論的に精緻であることが最上であるとは言えず、利用されてこそ価値があるものである。先に述べたような中小企業の会計についての動向も踏まえて、公益法人会計基準も計算書類の作成が簡易であり、かつ利用者が理解しやすいという視点を重視すべきと考える。この視点から次のように変更されることが望ましいと考える。

・ 大規模公益法人を前提とした構成をやめ、中小法人を前提とした記述にし、それを原則とした上で大規模公益法人については、追加の書類または会計処理を求めるという構成にする。

・ 収支計算書かキャッシュフロー計算書のいずれか作成すればよいことにする。

  具体的にはキャッシュフロー計算書を作成することで上場企業会計との乖離をなくすことができると考える。

・ 正味財産の部の永久拘束などの分類を行わない。

・ 金融商品、退職給付などの会計については適用について条件を設け、適用対象法人を限定する。

・ 連結財務諸表については適用について条件を設け、適用対象法人を限定する。

以下、個別に理由を述べる。

2.財務書類の種類

【意見】

収支計算書とキャッシュフロー計算書はどちらか一方を作成すればよいと考える。具体的にはキャッシュフロー計算書を作成することで上場企業会計との乖離をなくすことができると考える。多くの法人においてはキャッシュフロー計算書でも予算統制の目的に資すると考えるが、収支計算書の方が好ましいという判断であるならば、キャッシュフロー計算書を作成せずに、収支計算書の作成でも良いと考える。

〈理由〉

予算統制のための収支計算書と歴史的事実の表現としてのキャッシュフロー計算書は目的が異なることについては理解できるが、結果として作成される、収支計算書、直接法によるキャッシュフロー計算書、正味財産増減計算書の3表は大半の行において同一の勘定科目表示になる。

利用者の立場からすると同じような表が3つもあると見え、どこが異なるのか一行一行見比べるという事態になる。

大半の法人にとっては収支計算書とキャッシュフロー計算書とはほぼ同じで、重要な相違はないと考える。資金の範囲の定義が異なる2表を作成するメリットは少ないと考える。従って企業会計との乖離を少なくするという観点からキャッシュフロー計算書の作成だけで良いと考える。

なお、中間報告に記載されている「回収懸念のある資金収入が計上される」という収支計算書の弱点については、さほど重大な問題となっていないように思われる。従って場合によっては収支計算書のみの作成ということでも良いと考える。

3.正味財産の部の永久拘束などの分類

【意見】

正味財産の部の永久拘束などの分類を行わなくてもよいと考える。

〈理由〉

中間報告では、「現行の基準における正味財産に区分を設けない考え方のもとでは、正味財産として示される金額が必ずしも法人の自由意志でその使途を決めることができる金額を意味していないことになる。このような問題に対処するためには・・・」と記載されている。ここで「問題」と記載されているが、問題というほどの問題は生じていないと考える。したがって正味財産の部での分類は簡易な基準という基本的な価値観から考えて不要と考える。

そもそも「その使途」とは「正味財産の使途」と解されるが、配当可能利益という概念がない公益法人において、どの程度有用なのか疑問である。

資産処分の自由度については、借方において例えば基本財産として他の資産と区分することで、使用制限についての情報提供ができている。あえて貸方の正味財産の内訳として使途制限の程度を区分表示しなくても読者は読解可能であると考える。むしろ簡易という価値観を優先した方がよいと考える。

4.金融商品ほかの会計基準

【意見】

金融商品、退職給付などの会計については適用について条件を設け、適用対象法人を限定する。

〈理由〉

既述のように金融商品ほかの会計基準については数千社の大企業を想定して規定されたものであり、約200万社の中小企業を念頭においた規定ではない。金融商品や退職給付会計が重要な影響を与える公益法人は少ないと考えるので、公益法人への適用についてはそのまま適用するのではなく、限定的に適用すべきと考える。今回の基準に記載するよりは削除して別途考慮するのがよいと考える。

5.連結財務諸表

【意見】

連結財務諸表については適用について条件を設け、適用対象法人を限定する。

〈理由〉

公益法人は一般企業における企業グループのようなグループを形成することは極めて稀であると考える。従って原則からは除いて特殊な場合だけ作成を義務づけるのが良いと考える。なお、主要な支出先、関連当事者間取引等に関する情報を開示すれば連結財務諸表の作成まで行わなくても良いとも考える。また、企業のように人事における関係がある場合に損失負担まで行うか否かは公益法人の場合そのような社会的事情はないかもしれないので、もし連結財務諸表の作成を義務づけるのであれば、企業の基準をそのまま適用するのではなく公益法人の実態に沿った基準に見直す必要があるように思う。

W 個別事項

1.収支と損益という用語の区別について

  勘定科目について、収入・支出と収益・費用という用語を区別すべきと考える。

つまり、収支計算書及びキャッシュフロー計算書においては例えば「会費収入」「管理費支出」、正味財産増減計算書では「受取会費」「管理費」というように区別することが会計学的に正しいし、また利用者も計算書の違いを理解しやすいと考える。

2.キャッシュフロー計算書の作成方法

中間報告のとおり、収支計算書、キャッシュフロー計算書、正味財産増減計算書の3表を作成するならば、キャッシュフロー計算書は間接法で作成する方が有用であると考える。

中間報告のようにキャッシュフロー計算書を直接法で作成すると、ほとんどの同じような計算書が3種類並ぶことになる。一般の利用者は一行一行比べてどこが違うのか探すことになることが容易に想像される。間接法で表示すれば他の計算書と異なる表であり、何を開示しようとしているのか容易に理解できる。

3.正味財産の区分間の振り替えについて

中間報告では、「また、耐用年数にわたり拘束する意図で事業用の償却資産が寄付された場合には、当該寄付金収入を一時拘束正味財産の増加原因として処理するが、当該資産の使用又は時の経過に伴って、正味財産増減計算書のその他の正味財産増減の部において減価償却費を計上するとともに、減価償却費に相当する金額は一時拘束を解かれるので、一時拘束正味財産からその他の正味財産へ振り替えられなければならない。」とある。

@      減価償却費として一時拘束正味財産を減額するだけで会計処理を完了する方法も考えられるが、中間報告では、収益と費用を対応表示するために一時拘束からその他へ振り替えた後、その他の正味財産増減の部で減価償却費を計上していると思われる。しかし「一時拘束を解かれるので」という説明は一般利用者に理解されにくい概念であり、また理解されにくい会計処理と思われる。

A      資産の取得価額の一部について寄付を受けるケース(取得コスト>寄付の額)というケースもあるので、「減価償却費に相当する金額」と表現するよりは「減価償却費に対応する部分の金額」との表現が望ましいと考える。

4.正味財産増減計算書の表示区分について

その他の正味財産増減の部を冒頭に記載しているが、物事を説明する際に「その他」から説明するのは常識的でないため、配慮が望まれる。