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公益会計基準(案)について

以下は、全国公益法人協会、月刊公益法人2003年8月号に寄稿の原稿です。

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公益法人会計基準(案)について

中務 裕之

 平成15年3月28日に「公益法人会計基準(案)」(以下、「基準案」という)が公表された。作成にたずさわった方々の努力に敬意を表したい。

 以下、基準案の解説と私見を述べることとする。

T 基準案の位置づけ

 「U公益法人会計基準(案)について」の「5実施時期等」において、「基準の制度上の位置付け、適用の在り方及び適用時期等については、現在進められている公益法人制度の抜本的改革を踏まえ、検討することが必要である。」と記載されている。

 また、報道資料の「3報告書の取扱い」では「本報告書は、現行の公益法人会計基準の改善策として検討されたものであるが、公益法人制度の抜本的改革の動きも踏まえ、他の非営利法人にも適用可能な普遍性の高い基準として検討したものであり、抜本改革後の新たな法人制度における会計基準の検討に資するもの」(基準案の「6公益法人制度の抜本的改革との関係」においても同趣旨の記述がある)と記載されている。

 したがって今回の報告書は直ちに適用されるものではなく、公益法人制度の抜本的改革の結果を待ち、再度検討するにあたっての基礎とするものである。

U 現行基準からの変更点

 主な変更点は以下である。(対比表である別表Aも参考にされたい。)

1.正味財産増減計算書のストック式が廃止され、フロー式に統一された。これは企業でいう損益計算書と同等のものである。

2.正味財産の部を一般正味財産と指定正味財産の2区分に分けることとされた。

 指定正味財産とは、寄付によって受け入れた資産で、寄付者等(会員等を含む。)の意思により当該資産の使途について制約が課されているものである。

 指定正味財産の区分に記載される寄付としては、例えば、次のようなものがある。

(1) 土地の寄付としての受入れに当たり、寄付者から基本財産として保有することを指定された場合。

(2) 金銭の寄付としての受入れに当たり、寄付者から奨学金給付事業のための基金として、当該法人が元本を維持することを指定された場合。

3.収支計算書が収支決算書と改称され、収支予算書とともに会計基準の範囲外に位置づけられた。したがって基準上は予算準拠の規定がなくなった。

4.大規模法人にはキャッシュフロー計算書の作成が規定された。

5.注記が拡充された。(関連当事者間取引、有価証券の時価、重要な後発事象など)

 重要な後発事象とは、貸借対照表日後財務諸表作成日までに発生した事象で、次期以後の財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼすものである。

6.資産の貸借対照表価額について、次の規定がなされた。

@有形・無形固定資産について減価償却が強制された。

A有価証券について満期保有目的の債権以外の有価証券のうち市場価格があるものについては時価をもって貸借対照表価額とすることとされた。

B資産の時価が著しく下落したときは、回復の見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければならないこととされた。

7.重要性の原則が明記された。

 重要性の乏しいものについては、本来の厳密な方法によらず、他の簡便な方法によることができるとされた。

8.特定資産という資産区分が新設された。

 これは退職給付引当資産や減価償却引当資産のように、特定の目的のために預金、有価証券等で運用している場合に使用される科目である。

9.基本財産などと正味財産との関係について次のように規定された。

 現行基準では「基本財産=基本金」と規定されているが、基準案では基本金という概念がなくなった。基本財産について「寄附行為又は定款において基本財産と定められた資産」という規定には変更がない。基本財産及び特定資産と指定正味財産及び一般正味財産との関連は紐つけられていない。(貸借対照表における資産の部の概念と正味財産の部の概念を混同しないように、貸借対照表を参照しながら理解を進めていただきたい)

V 中間報告との相違点

 平成13年12月に公表された「公益法人会計基準の見直しに関する論点整理(中間報告)」から変更された主な点は以下である。

1.大規模法人を前提としていたが、基準案では小規模法人を基本に据えている。

 中間報告には次のように記載されている。「「基準」は、多様な公益法人の事業内容に対応できるだけの柔軟性を持った内容を備える必要があるが、今般の見直しでは、比較的事業規模の大きい公益法人を想定して会計基準を定め、その上で、「基準」の円滑な実務への適用のために、適用時期について段階的な措置を講じ、また、小規模な公益法人等については別途の特例措置を考える等の方向で検討が行われている。」

 このように比較的規模が大きい公益法人を想定して記述されていたため、第一印象としてはかなり難しい、煩雑という印象があった。今回の基準案では、「基準は、全ての公益法人に適用されるものである。」、また「今後の新たな非営利法人にも応用できるよう、検討会では普遍性の高い基準案を取りまとめた。」という表現から伺えるように、小規模法人を想定し、大規模法人への規定を例外と扱っているように感じられる。これは基準案の一般原則に「(2) 財務諸表は、正規の簿記の原則に従って正しく記帳された会計帳簿に基づいて作成しなければならない。」と規定されており、現行の複式簿記の原則という規定から変更されている点にも現れているのではないかと思われる。

 大規模法人を例外として規定している具体例としては、キャッシュフロー計算書の規定がある。

 また連結財務諸表については「段階的に導入することを検討する」という記述から、「今後の検討課題」という記述へとトーンが弱まった。

2.収支予算書と収支計算書の扱い

 中間報告でも基準案でもその重要性が指摘されているが、基準案では基準の範囲外であることが強調された。また収支算書は収支算書と名称変更された。

3.正味財産の部の区分

 中間報告では、永久拘束、一時拘束、その他の3つに区分されていたが、基準案では指定と一般の2区分とされている。

4.その他細かな点

    事業区分別情報(セグメント情報)、主要な支出先の情報についての記述がなくなった。

    中間報告では、収支計算書、正味財産増減計算書、キャッシュフロー計算書のいずれにおいても会費収入という言葉使いであったが、基準案では、資金や現預金の増減概念である収入・支出と損益概念である収益・費用とを区別するため、正味財産増減計算書においては受取会費などと正しい用語に改められた。

W 収支予算書、収支決算書

1.収支予算書、収支決算書の位置付け

 これらは会計基準の範囲外と位置付けられ、「別添資料 公益法人会計における内部管理等について(案)」の中に規定されている

 なぜ範囲外として位置付けられたかといえば、貸借対照表、正味財産増減計算書、財産目録、(大規模法人の場合、キャッシュフロー計算書も)は、公益法人の基本的な情報として広く国民に対して開示することが期待されるものである一方、収支予算書、収支決算書は理事者、寄付者、会員等の直接の利害関係者に対して資金の受託責任の観点から開示される情報と考えられるからである。

 したがって基準案が予算統制について軽視しているというのではなく、「予算の設定と執行が公益法人の運営における内部管理の手法として重要である」ととらえられている。

2.予算の内容

 経理処理規程の例示の中に「なお、収支予算に代えて、当該法人が自主的に、正味財産増減予算、施設整備予算等の予算を設定することができる。」との規定がある。

予算準拠の原則を厳格に規定している現行基準と比べて柔軟な発想であり、画期的な変更と思える。これは、基準案が公益法人のみならず、規模や活動の様々な他の非営利法人にも適用されうることを基本方針としたからだと言える。

W 私見

 基準案が現在の所、あくまで「案」であり確定版でないことから、公益法人制度の抜本的改革後に再検討される際に資するよう若干の私見を述べたい。

1.基本的考え方について

 次の基本的考え方について大いに賛成する。

    可能な限り企業会計の基準と合わせること

    広く一般向けの情報として理解しやすい内容とすること

    法人の状況に応じ選択の余地を設け、柔軟性を持たせること

    損益計算書を導入すること

 これらは筆者が委員長としてとりまとめにたずさわった日本公認会計士協会近畿会の非営利会計委員会における「非営利法人統一会計基準についての報告書」(平成12年12月)と考え方を同じくするものである。

2.指定正味財産と一般正味財産の区分について

 基準案では「寄付者等から受け入れた財産に対する法人の受託責任を明確にするため、寄付者等の意思によって特定の目的に使途が制限されている寄付を受け入れたことによって増加した部分を指定正味財産として表示することとした。」とされている。

 正味財産は法人の過去の活動の蓄積結果としての財産(すなわち資産−負債)に見合う観念上の金額のことであるが、基準案ではその蓄積の原因を、使途が制限されている寄附による額とそれ以外の活動結果による額とに分けることを規定している。

@対象となる寄付について

 定義としては注解6において「寄付によって受け入れた資産で、寄付者等(会員等を含む。)の意思により当該資産の使途について制約が課されている場合には、当該受け入れた資産の額を、貸借対照表上、指定正味財産の区分に記載するものとする。」とされている。この表現だけでは、使途について制約があると記載されているだけで、資産の残高の維持が条件となっていないので、○○事業のための寄付金見合いの額も指定正味財産に区分されると理解することもできる。しかし基準案に示された例示から判断すると現実の解釈としては土地であったり、特定目的の引当預金であったり残高が維持される場合の寄付をいうものと思われる。

A指定と一般とを区分する必要性について

 上述したように使途が制約されており、かつ残高が資産として維持されている額に見合う額を指定正味財産として区分表示すると思われるので、毎年経常的になされる一般の寄付は例え使途が指定されていてもお金が費消されるのでこれに含まれない。正味財産の生成原因の説明として、使途制約かつ残高維持の寄付とそれ以外の活動によって蓄積した正味財産とを区分表示する情報がどのように有用であるか疑問に感じる。むしろ財務諸表の一般利用者や経理担当者に理解しにく、煩雑になるのではないかと思われる。

3.会計基準の設定機関について

 日本における会計基準の設定機関として、財団法人財務会計基準機構の企業会計基準委員会があるが、中小会社の場合はどうなのかという議論がある。一方、非営利法人については、公益法人の他にも社会福祉法人や学校法人などもあるが、それらの会計基準を設定する機関が別々である。広く国民が理解しやすい財務諸表であるためには、統一した会計基準が設定されることが望まれるし、その設定機関が設けられることが望まれる。

X 具体的イメージ(このホームページには掲載していません)

 簡単な設例を作成した。別表Bを参照されたい。

 主な着目点は以下である。(以下、アルファベットは別表上の符号)

貸借対照表

A 特定資産の部が設けられた。

B 企業会計と同じく退職給引当金と改称された。なお、今回の改正案を原因とするわけでもないが、これまで税法基準で引き当てていた場合、企業会計における簡便法で設定すると自己都合退職による期末要支給額の100%を引き当てることとなるが、その影響は大きいと思われる。(基準案では設定の基準までは触れられていないが)

C 正味財産の部が、指定正味財産と一般正味財産に区分された。

正味財産増減計算書

D 一般正味財産増減の部と指定正味財産増減の部に区分された。

E 指定正味財産から一般正味財産への振替額は、設例では対象となる資産として基本財産の建物を想定しており、基本財産の額が指定正味財産の額に等しい必然性はないのであるが、設例ではその場合を前提としたので、建物の減価償却費に見合う額である。

収支決算書

F 事業活動収支の部、投資活動収支の部、財務活動収支の部の3つに区分された。

3表の相違点

G 収支決算書とキャッシュフロー計算書では固定資産売却に伴う入金額7が表示されるのに対し、正味財産増減計算書では売却損14が表示される。

H この設例では、収支決算書における資金の範囲を現金預金及び短期金銭債権債務等としているので、会費・入会金収入や事業費支出の額は、正味財産増減計算書の受取会費や事業の金額と同じになっているが、資金の範囲を現金預金としたならば、それらの額はキャッシュフロー計算書の金額と同じになる。つまり、正味財産増減計算書の金額とキャッシュフロー計算書の金額は法人による選択の幅は少ない(したがって法人間の比較が容易である)が、収支決算書の収入・支出の額は法人による資金の定義次第により変化する。

I 現金や資金の出入りを報告するキャッシュフロー計算書や収支決算書と正味財産増減計算書との大きな相違点は、正味財産増減計算書には現金や資金は動かないが、正味財産は動く取引が計上されることである。設例では減価償却費、賞与引当金繰入額、退職給付引当金の繰入額としての退職給付費用を記載している。

Y おわりに

 以上、主立った点を記してきたが、大きな目でとらえてみると、正味財産増減計算書がフロー式に統一された以外は、会計処理の事務処理的には比較的容易に対応可能と思われる。したがって現在ストック式で作成している法人はフロー式を検討しておくと、基準案に沿った改正がなされた際に移行がたやすくなると思われる。